佐賀市を拠点に、県内のひとり親を支援する団体がある。現在、高校3年生の娘と中学2年生の息子を一人で育てる同市の50代女性が、子育てに苦労した経験から約20年前に立ち上げた。この支援を必要とする世帯は年々増加し、現在では同市で約170世帯にのぼっている。
佐賀市は子育て政策に力を入れており、今年4月には母子保健と児童福祉の機能を一体化した「こども家庭センター」を設置した。また、物価高対策の一環として児童の給食費無償化も実施している。さらに、9月末には大学の奨学金返還支援を行うことも発表された。
しかし、この女性はこうした政策に対して「本気を感じない」と語る。給食費無償化は3学期のみの実施であり、奨学金支援も市内の企業に勤める正社員に限られているためだ。
今夏、娘が東京への進学を希望した際、市役所へ大学進学のための貸し付けを相談したが、要件を満たさず利用できなかった。その際、「もう少し近場で進学を考えてみては」と言われたことが忘れられないという。
女性は「支援からこぼれる人が必ずいるし、一時的な支援では抜本的な解決にならない。家庭の状況に応じた子育て、教育、進学の切れ目ない支援が必要だ」と強調する。
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5月上旬、佐賀市内のビルに佐賀商工会議所や佐賀大学、地元企業の関係者が集まり、地域課題を解決する若い人材を育成しようと、産学官民の連携組織「CREATIVE LINK SAGA」が発足した。
この組織は来年2月までに約50回の無料講座を開催し、起業家や大学教授が講師を務める。対象は20~30代の学生や社会人で、ブランディングやAI活用技術などを学ぶ内容となっている。
市内IT企業に勤める26歳の矢部紗雪さんは、同世代との交流を求めて参加。受講を通じて、ビジネスにおけるリスク管理の重要性など新しい視点を得たという。
佐賀市によると、2021年の「社会増減」では転入者数から転出者数を引いた結果、217人の転出超過となった。特に20~24歳が180人、25~29歳が176人の転出超過で、過去10年は15~29歳の若年層の転出が目立っている。
これを受け、市は若者定着を促進する政策として、開学予定の県立大学周辺の街づくりや西九州大学佐賀キャンパスの新学部設置支援などに取り組んでいる。
矢部さんは「佐賀には何もない」と思い込み、同世代が福岡などへ離れていく現状を悔しく感じている。「自分の夢は佐賀に若い人の雇用をつくること」と話す。
また、行政の支援策の重要性も実感しており、「小中高の教育過程で佐賀には活躍できる場があると伝えてほしい」と訴える。
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市民のニーズに応え、時代に即した未来像をどう描くか。佐賀市の首長と市議会には、県都を導く力が問われている。
(取材・文/竹中謙輔)
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