裁判のやり直しにつながりかねない重大な事案である。根底から揺らいだ刑事司法への信頼を取り戻すためには、やはり第三者による透明で公正な究明が不可欠だ。 佐賀県警の科学捜査研究所(科捜研)の元職員がDNA型鑑定で不正を繰り返していた問題で、警察庁が県警に対する特別監察を始めた。付属機関である科学警察研究所から鑑定の専門家も同行させ、原因の解明とともに再発防止策をまとめるという。 特別監察は都道府県警の重大な不祥事などが起きた際に実施される異例の措置だ。記録の残る2011年以降では5例目で、前回は昨年の鹿児島県警のケースだった。今回は佐賀県警の問題公表後に高まった世論の批判や、科学捜査全体への信用が損なわれた事態を重く見て踏み切ったものだ。 しかし、警察組織の身内による調査にほかならず、明らかに公正さに欠ける。佐賀県弁護士会や日弁連など多くの司法関係者が、第三者機関による原因解明と、捜査や公判に与えた影響の検証を要求している。 県警がその必要性を否定する中、県議会が第三者の調査を求める決議案を全会一致で可決した事実も重い。監察結果がどうであれ、警察から独立性のある機関による検証を改めて求めるべきだ。 科捜研の元職員は昨年10月まで7年以上にわたり、実際には実施していない鑑定を偽装したり、鑑定試料を紛失して別の物を警察署に返還したりするなど、130件の不正を重ねていた。このうち16件は、殺人未遂や不同意性交といった事件の証拠として佐賀地検に送付されていた。 地検は「処分の決定(起訴、不起訴)や公判の証拠として使用された事例はない」としているものの、客観的な根拠を示しておらず、説得力に欠ける。県警も「事件捜査への影響は認められず、公判への影響もないと考えている」としている。 こうした説明を特別監察が追認して終わるようであれば、捜査機関への不信はさらに増幅するのではないか。 究極の個人情報とされるDNA型の鑑定は有罪判決の決め手になる一方で、過去には冤罪(えんざい)を生んできた。再捜査や冤罪を晴らす上で再鑑定が必要になる場合もある。にもかかわらず、鑑定後に残った試料の保管はなおざりにされてきた。 今回の問題はその実態を浮き彫りにした。元職員が7年超の間に担当した632件の鑑定のうち、残った試料が保管されていたのは124件にとどまったという。 背景には、鑑定後の試料の保管や、無罪になった人のデータ抹消といった取り扱いを定める法律がなく、警察の裁量任せにされている現状がある。鑑定試料の保存義務を課すなど、法制化の議論も併せて始めるべきだ。https://www.nishinippon.co.jp/item/1410885/